SpaceXが描く「軌道上データセンター」はどこに費用がかかるのか? 「1日約27回の打ち上げ」試算と放熱の壁を数字で読む
AIの計算基地を宇宙に浮かべる。SpaceXのイーロン・マスク氏は、それが「最も安い」と言います。ですが、いま試算できる数字を並べると、宇宙側は打ち上げるだけで地上のデータセンター建設費に匹敵する費用がかかります。どこにお金が消えるのでしょうか。鍵は、真空で熱を捨てる「放熱板」です。
「1日約27回」という打ち上げ試算はどこから来たのか
マスク氏は2026年2月公開の対談で、年率100ギガワット(GW)、大型原子力発電所およそ100基分の電力を計算設備に供給する規模を宇宙に足す目標に言及しました。ここでの100GWは電力です。計算性能の数字ではありません。報道が伝えるSpaceXの米連邦通信委員会(FCC、アメリカの通信規制当局)への申請によるとされる枠組みは「年100万トンの衛星を打ち上げ、1トンあたり100キロワットの計算能力を生めば年率100GWを追加できる」というものです。では、年100万トンを運ぶには何回飛べばよいのでしょうか。Starship(スターシップ)の公表ペイロード(1回で運べる荷物の量)は完全再使用構成で100トン超。仮に100トンずつ運ぶと、年約1万回です。1日あたり約27回、およそ53分に1回の計算になります(割り算は編集部)。ただし、これはあくまで機械的な試算で、実際の必要回数や配備計画とは別物です。FCCが確認しているのは、最大100万機の申請です。
打ち上げ1回の値札と、費用を膨らませる「放熱板」
費用の柱は打ち上げです。SpaceXは実費を公表していませんが、第三者試算は悲観的に1回1億ドル(2026年時点、1ドル150円で約150億円)と置きます。150億円は、公立小学校(1校あたり十数億円規模)が約10校建つ額です。この1回が、40メガワット級の軌道データセンターでは何度も必要になります。
なぜ回数が膨らむのでしょうか。地上のデータセンターは、空気や水の流れ、つまり対流で熱を捨てています。真空の宇宙には、その流れる空気がありません。NASAの技術資料も「真空環境では対流のヒートシンクが存在せず、定常状態の排熱はラジエータ面からの輻射が支配的」とします。熱は輻射(赤外線として宇宙へ放射する仕組み)でしか捨てられず、発電量とほぼ同量の熱を巨大な放熱板(ラジエータ)で逃がす必要があります。そして放熱板は、かさばります。ロールアウト式太陽電池が1立方メートルに259平方メートル分たためるのに対し、放熱板は5平方メートル分(いずれも推定)。この体積の差が、打ち上げ回数を押し上げます。別企業Starcloudの40メガワット案を第三者が再計算した試算では、機材質量の半分以上を放熱板が占め、打ち上げの多くが放熱板の輸送に消えます。この試算はStarcloud案を用いた参考例で、SpaceX案へ直接は当てはめられません。
積み上げると、軌道側は打ち上げ輸送費だけで十数億〜20億ドル超の規模です。一方、地上の同規模(40メガワット)は、建設費ベンチマークで標準型(shell and core、土地やIT機器を除く)が約4.3億ドル、AI向けの高密度内装で最大約10億ドルとされます(1メガワットあたり約1,070万〜2,500万ドル)。宇宙側は機体製造や軌道上組立、交換の費用を含まず、地上側も土地やサーバーを含まないため、これは総コストの比較ではありません。それでも、いま試算できる範囲では「宇宙が最も安い」は自明ではなく、放熱の重さが費用を地上並み以上に押し上げていることが見えてきます。構想の成否を分けるのは、Starshipの打ち上げ単価と、放熱板をどこまで軽くできるかです。
出典(一次ソース)
- Dwarkesh Podcast(マスク氏対談・一次。100GWはpowerとして説明) https://www.dwarkesh.com/p/elon-musk
- イーロン・マスク公式X https://x.com/elonmusk/status/1989449151063658518
- SpaceX公式 Starshipページ https://www.spacex.com/vehicles/starship/
- LightReading(FCC申請の報道) https://www.lightreading.com/data-centers/musk-magic-not-needed-for-spacex-s-orbital-ai-data-center-plan
- NASA技術資料(Thermal Control) https://www.nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/thermal-control/
- Angadh Nanjangud氏の技術試算(Starcloud案の再計算・参考値) https://angadh.com/space-data-centers-1
- JLL「2026 Global Data Center Outlook」/データセンター建設費/MWベンチマーク(地上の建設費・報道ベース) https://www.jll.com/en-us/insights/market-outlook/data-center-outlook
装備仕様・作戦情報は執筆時点の公開情報に基づきます。