「電波妨害では止められない」光ファイバードローン:数十kmの細い糸でつなぐ仕組みとは?
光ファイバードローンは、操縦のための信号や機体からの映像などの信号を電波から機体から繰り出される細いガラスの糸に置き換えた機体です。電波妨害の影響を受けない通信を、糸の重さと引き換えに手に入れたとされます。その仕組みと代償とは。

機体から繰り出される細いガラスの糸が、操縦電波の代わりを務めるドローンがあります。妨害電波の割り込む余地がどこにもないのです。
なぜ細い糸が、無線よりも頼れる通信路になるのでしょうか。
光が糸の中だけを走る通信の原理
光ファイバードローンとは、FPV(カメラ映像を見ながら操縦する方式)ドローンの通信を丸ごと有線に置き換えた機体です。
米陸軍は2025年8月12日、光ファイバードローンの構造を公式解説で説明しました。髪の毛ほど細い光ファイバーケーブルをスプール(糸巻き)に巻いて機体に取り付け、離陸するとケーブルが繰り出されます。映像と操縦信号の両方が、このケーブルを通ります。
糸を引きずって飛ぶと聞くと、すぐに信号が届かなくなりそうに思えます。
ドローン用光ファイバーの伝送損失は、波長1550nm(ナノメートル)の光で1kmあたり0.25dB以下だとされます(メーカーのZion Communicationのデータシート)。
このdB(デシベル)とは、信号の弱まり方を表す単位で、20km飛んでも信号が数分の一程度にしか弱まらない低損失を意味します。長距離の映像伝送に向いた性質です。
電波との根本的な違いは、もうひとつあります。光は閉じたガラスの中だけを伝わるため、外部に電磁波をほぼ漏らさず、外部からの電磁干渉も受けません。
ジャミング(電波をかき乱して無線を使えなくする妨害)するには、そもそも割り込むことのできる無線での通信が存在しません。操縦と映像を運ぶ光のリンクそのものは、電波妨害の影響を受けないのです。
1957年に始まった有線誘導の研究
「操縦の信号を線で送る」という発想には、70年近い歴史があります。
対戦車ミサイルTOW(トウ)につながる所内研究は、米陸軍レッドストーン兵器廠(へいきしょう)で1957年1月に始まりました。TOWの名は「発射筒発射、光学追尾、有線誘導」の頭文字で、最後のWはワイヤー(Wire)を指します。
ワイヤーによるデータリンクが選ばれた理由は、コスト効率と、とくに対抗手段や環境劣化への頑健性でした(公式史)。妨害に強いからこそ線を使うという理屈は、現在の光ファイバードローンと同じです。
1969年8月にHughes Aircraftが最初のTOWミサイルを納入し、1970年9月には訓練大隊が運用を始めました。製造を引き継いだRTX社のもとで、TOWはいまも運用の続く兵器システムだとされます(同社の製品紹介)。
線はやがて、ワイヤーから光ファイバーに替わります。同じ公式史の1987年の項に登場する、光ファイバー誘導ミサイルFOG-M(フォグエム)です。
FOG-Mは、光ファイバー誘導により、遮蔽された陣地から間接的に敵を射撃する発想で、HVT=高価値の目標を攻撃することを実証するプロジェクトでした(公式史)。
その強化型にあたるEFOG-Mは、ミサイル先端の高解像度赤外線カメラの映像を、光ファイバーで射手の手元へ返しました。丘や市街地の陰に隠れた目標を捉える仕組みだったとされます(米陸軍AMRDECの紹介記事)。
ミサイル自身が見ている映像を、糸を通して人間が見ながら誘導するという構図です。現在の光ファイバーFPVドローンと同じ絵が、すでに数十年前に描かれていたことになります。
市販品になった光ファイバースプール
FOG-MもEFOG-Mも、米陸軍の研究開発プロジェクトでした。現在との大きな違いは、同じ役割を果たす部品が民生品として市販されていることです。
ドローン用の光ファイバースプールは、いまや通信部材メーカーの製品カタログに載っています。販売元のUnited UAVの公式ストアには、5km巻きから50km巻きまでが並びます。Zion Communicationの製品は1kmから50kmまでそろっています(巻き長ごとの価格と重量は図にまとめます)。
専用開発のミサイルでしか実現できなかった構図が、民生のFPV機と市販のスプールの組み合わせで再現できるようになりました。そこが、この方式の大きな変わり目です。
探知の手がかりを失う対ドローンシステム
無線のFPVドローンは、操縦電波や映像電波を自ら発しながら飛びます。多くの対ドローンシステムは、この電波を手がかりにしています。
光ファイバードローンは、この前提を崩します。
光ファイバードローンは、電磁スペクトル検知に頼る多くのC-UAS(対ドローン)システムの探知を回避できるとされます。電子サブシステムの発する信号は極めて弱く、探知が難しいといいます(米陸軍の解説)。妨害が効かないだけでなく、見つける手がかりそのものが乏しいのです。
対抗策として挙がるのは、操縦者が使いそうな場所の予測や移動する兆候の有無を監視すること、機体の騒音、赤外線、そしてケーブルが反射する光による探知です。ほかに、ケーブルを障害物に絡めさせる回避策、遮蔽やネットによる防護、そしてデコイ(おとり)による欺瞞(ぎまん)もあります(同じ解説)。
電波が使えないぶん、音や熱や物理的な網といった古典的な手段が並びます。そして対策は今のところ限定的だとされています。
糸を引きずることの代償
ただし、この方式は万能ではありません。弱点は糸そのものにあります。
スプールは、巻き長が伸びるほど重くなります(メーカーのデータシート)。距離を求めるほど機体は重い糸巻きを抱え、そのぶん搭載できる物の重さが削られます(巻き長ごとの重量は図にまとめます)。
繰り出したファイバーは回収されず、飛行のたびに使い切りになります。糸が切れたり障害物に絡んだりすれば、通信はそこで断たれます。だからこそ、ケーブルを障害物に絡めさせることが防御側の回避策に挙がっています(米陸軍の解説)。
なお、有線のドローンにはもうひとつの系統があります。線で電力を送り続け、バッテリー交換なしに飛ばすテザー型UAS(ケーブルでつながれた無人機システム)です。
米陸軍は2026年7月27日から8月7日にかけて、この方式を評価しました。試験では操作者がジャミングを回避したと報告されています。飛ぶたびに糸を使い切る光ファイバーFPVとは、同じ有線でも役割が異なります。
米軍で始まった正式な評価
この技術は、軍が正式に評価する段階へ進みました。
米海兵隊第1海兵遠征軍と国防イノベーションユニット(DIU)は2026年1月27日から29日、キャンプ・ペンドルトンで「信号が劣化した環境向けの光ファイバーFPV小型無人機」の評価イベントを実施しました。
1957年にワイヤーで始まった有線誘導の系譜は、光ファイバー誘導ミサイルを経て、市販のスプールを民生のFPV機に載せる形へたどり着きました。
電波妨害の影響を受けない低損失の通信は、重い糸巻きと絡まりやすい糸を抱えて飛ぶことと引き換えです。この差し引きの上に、光ファイバードローンという設計は成り立っています。
そしてこの機体への対処能力は、今のところ限定的だとされ、戦場では高い効果があると期待されています。


