操縦電波を使わない「光ファイバードローン」なぜ電波妨害が空振りする!? 数十kmの糸で繋がる仕組みとは
操縦・映像のやり取りを狙う電波妨害(ジャミング)が原理的に成立しないドローンが、実戦で使われていると報告されています。機体から釣り糸より細い光ファイバーを繰り出し、操縦信号とカメラ映像を有線で送る「光ファイバードローン」です。なぜ細い糸1本で数十km先まで操れるのでしょうか。鍵は、ガラスの芯を進む光の性質にあります。
なぜ無線リンクは妨害の対象になるのか
従来のFPVドローンは、操縦者と機体を電波で結んでいます。操縦信号を機体へ送り、映像を手元へ返す。この往復がすべて無線です。
電波は空間に広がって届きます。届くということは、相手にも届くということです。操縦リンクに妨害電波を重ねれば通信断を、偽の信号を送り込めば誤誘導を狙えます(成功するかどうかは、通信方式や認証の仕組みしだいです)。しかも、電波を発すること自体が痕跡になり、防御側はその方向探知で発信源を割り出して接近を察知できます。無線のFPVドローンは「見つかり、妨害される」という宿命を、電波と一緒に背負っているわけです。
電気信号を「光」に変えて、糸の中を走らせる
光ファイバードローンは、この電波リンクを丸ごと有線に置き換えました。機体にスプール(糸巻き)を積み、飛びながら光ファイバーを後方へ繰り出していきます。操縦信号も映像も、この1本の糸の中を光として往復します。といっても、信号がはじめから光なのではありません。両端の装置内では電気信号のままで、送信側で光に変え、受信側で電気に戻します。1本のファイバーに双方向の信号をどう同居させているのか、その多重化方式は製品としては公表されていません。
糸の正体は、二層構造のガラスです。中心に光を運ぶ細い芯(コア)があり、その周囲を、屈折率(光の進み方を決める性質)がわずかに低い層(クラッド)が包みます。この屈折率の差のおかげで、光はコアに閉じ込められたまま進みます。使われているのは、光の伝わり方をひとつのモードに絞る「単一モード」ファイバーで、急に曲げても損失が増えにくいG.657A2という規格が選ばれています。外側の樹脂被覆はガラス表面の保護役で、引っ張りに強い型ではケブラー補強も入ります。
こうして、妨害の対象だった操縦・映像リンクの電波そのものが消えました。狙うべき電波が存在しない以上、そのリンクへのジャミングもスプーフィングも成立せず、電波を手がかりにした探知もできません。米シンクタンクCNASのサミュエル・ベンデット氏は「最大の利点は電子戦とジャミングへの完全な耐性であり、同時に優れた映像品質を提供することだ」と述べています。ただし、この耐性はあくまで通信リンクに限った話です。レーダーや目視、音響といった別の手段で見つかることまでは防げません。
図:光ファイバードローンの通信のしくみ
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<text x="30" y="30" font-size="14" font-weight="700" fill="#16181b">光ファイバードローンの通信のしくみ</text>
<text x="30" y="50" font-size="10.5" fill="#5c5f67">両端で電気↔光を変換し、1本の光ファイバーに双方向の信号を載せる(多重化方式は製品非公表)</text>
<text x="380" y="78" font-size="10.5" font-weight="700" fill="#16181b" text-anchor="middle">操縦信号(操縦者→機体)</text>
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<polygon points="574,84 582,88 574,92" fill="#16181b"/>
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<text x="90" y="122" font-size="11" fill="#16181b" text-anchor="middle">操縦者側</text>
<text x="90" y="138" font-size="10" fill="#5c5f67" text-anchor="middle">電気↔光 変換</text>
<rect x="170" y="100" width="420" height="48" rx="4" fill="#16181b"/>
<text x="380" y="121" font-size="10.5" fill="#fff" text-anchor="middle">1本の光ファイバー(単一モード)</text>
<text x="380" y="137" font-size="9.5" fill="#c9c9c2" text-anchor="middle">コア=屈折率高/クラッド=低 で光を導く</text>
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<text x="670" y="122" font-size="11" fill="#16181b" text-anchor="middle">機体側</text>
<text x="670" y="138" font-size="10" fill="#5c5f67" text-anchor="middle">電気↔光 変換</text>
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<polygon points="186,164 178,168 186,172" fill="#1f6f4f"/>
<text x="380" y="186" font-size="10.5" font-weight="700" fill="#1f6f4f" text-anchor="middle">映像(機体→操縦者)</text>
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<text x="45" y="223" font-size="10.5" fill="#16181b">無線リンクがない:妨害(ジャミング)や電波探知の対象となる操縦・映像の電波が存在しない</text>
<text x="45" y="239" font-size="10.5" fill="#5c5f67">=これらのリンクを狙う電子戦は成立しない(レーダー等ほかの探知手段までは防げない)</text>
<rect x="30" y="256" width="700" height="44" rx="4" fill="#fff" stroke="#c9c9c2"/>
<text x="45" y="276" font-size="10.5" font-weight="700" fill="#16181b">距離と減衰(メーカー公表の上限値 0.25dB/km以下 で計算)</text>
<text x="45" y="292" font-size="10.5" fill="#5c5f67">1550nmでの計算:0.25dB/km × 20km = 5dB以下 → 伝送路のみなら20km後も光は少なくとも約32%が到達</text>
<text x="30" y="320" font-size="9.5" fill="#8a8d94"><tspan x="30" dy="0">数値はZion Communication製品データシート(0.25dB/km以下)と編集部の計算による。コネクター・曲げ・結合や送受信端末の損失は含まない。</tspan><tspan x="30" dy="13">矢印は信号の向きを示す。1本のファイバー上での双方向の多重化方式は製品として非公表。</tspan></text>
</svg>
20kmのファイバーを通っても、光は「約3分の1」残る
糸1本で、なぜ数十kmも届くのか。効いているのは、光ファイバーの伝送損失の小ささです。メーカーが公表する上限値は0.25dB/km以下。この値で計算すると、波長1550nmの光は20km走っても、少なくとも約3分の1(約32%)の強さが残ります(伝送路だけの計算で、コネクターや曲げの損失は別に生じます)。この余裕が高精細映像への対応を支えている、というのがメーカーの説明です。速さも問題になりません。光がファイバーを20km進む片道の理論値は約0.1ミリ秒とごく小さく済みます(映像を光へ変換・復元する処理の遅延は、これとは別に生じます)。
ウクライナのメーカー各社は、さらに長い到達距離をうたっています。ただし裏づけは各社の公表値だけです。距離を伸ばせばスプールは重くなり、そのぶんペイロード(搭載できる量)が大きく削られます。長さは、ただでは手に入りません。
「糸」の代償と、物理的な防御層の追加
では、代償はないのでしょうか。あります。まず失われるのは身軽さです。スプールと繰り出し機構を積むぶん機体は重く大きくなり、速度が落ち、搭載量が減り、飛行前の準備にも時間がかかるようになります。遅くなった機体は、小火器のような物理的な手段に対して相対的に脆くなります。糸そのものも弱点です。「ケーブルが車輪に巻き付いて動けなくなることがある」という運用者の証言があり、切断されれば制御を失います。地上に残ったファイバーの筋をたどられて、操縦拠点の位置が暴露された事例も報告されています。妨害できない代わりに、糸は物理の世界に痕跡を残すのです。
防御側の対応も、それに合わせて変わりつつあります。リンクへのジャミングが効かない以上、光ファイバー型には散弾銃やライフル、ネットといった物理的な手段を組み合わせる必要がある、とCSISの公開記録は指摘しています(レーダーによる探知は引き続き有効で、無線型にはジャミングも効きます)。電波の攻防をすり抜けてくる相手を、最後は物理で止める。防御の層が一枚、増えようとしています。
出典(一次ソース)
- CSIS公開イベント記録「The Russia-Ukraine Drone War: Innovation on the Frontlines and Beyond」(2025年5月28日・実戦での使用および物理的対処の報告) https://www.csis.org/analysis/russia-ukraine-drone-war-innovation-frontlines-and-beyond
- CEPA「A New and More Deadly Drone on Russia's Battlefields」(2025年3月3日・実戦での使用および運用者証言・ベンデット氏コメント) https://cepa.org/article/a-new-and-more-deadly-drone-on-russias-battlefields/
- Zion Communication 製品データシート「FPV Drone Fiber Optic Spool G657A2」(波長1550nm・伝送損失0.25dB/km以下・スプール諸元) https://www.zion-communication.com/FPV-Drone-Fiber-Optic-Spool-G657A2-Ultra-Micro-UAV-Optical-Tether-pd542239048.html
- ITU-T G.657「Characteristics of a bending-loss insensitive single-mode optical fibre and cable」(単一モード・曲げ耐性規格) https://www.itu.int/epublications/publication/itu-t-g-657-2024-08-characteristics-of-a-bending-loss-insensitive-single-mode-optical-fibre-and-cable
- Cisco 単一ファイバー双方向通信(PON)の技術解説 https://www.cisco.com/site/us/en/learn/topics/networking/what-is-passive-optical-networking.html
装備仕様・作戦情報は2026年7月時点の公開情報に基づきます。本記事は情報提供を目的としたもので、軍事作戦等への助言ではありません。