SpaceXの途方もない「軌道上データセンター」構想とは
SpaceXは、衛星軌道にAI用の計算設備を投入し、電力換算で毎年100ギガワットの発電能力を増やす計画を発表。一見すると途方もない計画にみえるその中身とは

データセンターを、地上ではなく地球を回る軌道の上に建てる構想です。SpaceXはこれを規制当局への申請書と、上場のための資料にまで書き記しています。
毎年「原発100基分」を積み増す計画
SpaceXは2026年2月2日の公式発表で、AI企業のxAIとの事業統合とともに、一つの目標を発表しました。目標は、宇宙空間に浮かべるAI計算の設備を、計算用電力に換算して毎年100ギガワット(GW)ずつ増やしていくというものです。
100GWは、大型の原子力発電所およそ100基分の出力に相当します(編集部換算)。この発電規模は、米国の年間発電量の約5分の1にあたるとされます(上場登録届出書=S-1)。
「2〜3年以内に、AI計算を生み出す最も低コストな方法は宇宙になる」という見立ても、マスク氏の署名入りで同じ発表に添えられています。
これに先立って1月30日に、同社は「SpaceX Orbital Data Center system」(軌道上データセンターシステム)を米連邦通信委員会(FCC・通信を管轄する規制当局)へ申請しました。そこで想定されている衛星の数は最大100万機です。
2月4日に申請を受理したFCCは、審査を始めています。
実績3,000トンと目標100万トンの開き
構想そのものは単純です。1トンあたり100キロワットの計算用電力を持つ衛星を、年に100万トン分打ち上げれば年100GW分を追加していけるという計算です。
ちなみに打ち上げ回数が史上最多だったのは2025年ですが、それでも軌道に投入されたペイロード(積み荷)は、世界全体で約3,000トンでした。目標の年100万トンは、その300倍を超えます。この開きを埋めるために、いずれは「1回200トンを積むStarshipを1時間ごとに打ち上げる」とし、年間では数千回の打ち上げが必要になるとしています(S-1)。ただし、現行Starshipの公表積載能力は完全再使用で100トン超で、200トンはまだ計画段階です。
対流が使えない真空の放熱
技術的な課題は輸送だけではありません。宇宙が地上と根本的に違うのは、熱の捨て方です。
真空中で熱は、輻射(赤外線として放射すること)と伝導でしか伝わりません。地上の空冷や水冷のように、機体の外へ対流で熱を捨てる手が使えないのです。衛星の内部で冷却ループを回し、熱を集めて運ぶことはできます。それでも最後は、ラジエータ(放熱板)から冷たい深宇宙へ輻射で捨てるしかありません。そのためAI計算衛星は、通信衛星に比べて著しく大きな太陽電池アレイとラジエータが必要になるとみられます(S-1)。公表済みの衛星「Starmind(スターマインド)」は、展開時の高さ30m、翼幅75mと非常に大きい設計になっていて、それでもペイロードのピーク電力はまだ250キロワット程度です。
軌道は、地上の同じ地点をほぼ同じ時に通過する太陽同期軌道です。設計上は、この軌道で連続した日照を得られるとしています。そしてこのような方式なら、地上で必要なチラー(水を冷やす装置)や冷却塔、ファンは要らないため、冷却に使う電力は1桁減らせるとしています。
打ち上げ単価は今も非公表
では、「軌道データセンター」によって、コストは地上より安くなるのでしょうか。
宇宙なら建屋も空調設備も送電網への接続も要らないとされます。SpaceXは、総額での初期費用は地上にデータセンターを建設した場合よりも安価になるとしています(S-1)。
一方で、費用の大きな部分を占めるAIプロセッサの調達費は、宇宙へ移しても下がらないともしています(S-1)。
地上側では、国際エネルギー機関(IEA)の集計で世界のデータセンター投資が2024年に5,000億ドルに達しました。ただしこれは世界全体の年間投資額で、軌道側の展開費用と直接は比べられません。
「軌道上データセンター」の商用運用実績は、2026年9月時点でゼロです。それでも計画は、FCCの申請受理、衛星量産工場と半導体工場の建設まで進みました。展開開始は、早ければ2028年だとしています(S-1)。
残るは、打ち上げ費用です。「地上より安い」という見立ての検算は、要となるStarshipの打ち上げ単価をどこまで下げられるのかにかかってきます。
これまでの歴史で、宇宙に1㎏を運ぶのにかかった費用は平均で約18,500ドル。しかしこれは、2010年に1kgあたり約2,700ドルへ下がり、2018年には約1,400ドルまで逓減してきています。
SpaceXは打ち上げ費用を公表していないため、この壮大な計画の実現可能性は現状では未知数ですが、もし実現されれば宇宙利用の新たな時代が幕あけすることになるでしょう。


