迎撃困難な「25式高速滑空弾」 そのからくりとは
25式高速滑空弾は、弾道ミサイルより低い大気圏内を滑空しながら「機動」するため、迎撃が非常に困難な兵器だとされます。その仕組みとはどのようなものでしょうか。

今年、陸上自衛隊に「25式高速滑空弾」という新しい装備が加わりました。ミサイルの一種でありながら、これまでの技術では迎撃が難しいとされる兵器です。
放物線を描く弾道ミサイルと迎撃技術
もともとミサイルの迎撃技術はどこを狙って放たれたものか、あるいは、どこに落ちてくるのかを予測できることが前提となっています。弾道ミサイルは、ロケットで一気に加速しながら高く打ち上げられ、ロケットの燃焼が終わったあとは放物線を描いて落下する仕組みです。上に向けて投げたボールがどこに落ちるのかが分かるのと同じで、着弾地点までの弾道は予測しやすくなります。
例えば日本の弾道ミサイル防衛(BMD)は、大気圏外で迎え撃つ上層と、落下してくる段階で迎え撃つ下層を重ねた多層の仕組みです。いずれも、放物線を描いて飛んでくる弾道ミサイルを想定した体制です。
では、途中で進路を変えながら飛んだ場合はどうなるのでしょうか。「25式高速滑空弾」は、落下時に進む方向を変え、放物線での弾道から外れるように設計された弾なのです。
米国、中国、ロシアが先行した滑空兵器の系譜
「滑空して動く」という考え方は、日本の発明ではありません。先行したのは米国、中国、ロシアです。
総称は、極超音速滑空兵器(HGV)です。令和8年版防衛白書は、弾道ミサイルに搭載され、大気圏内をマッハ5(音速の5倍)以上の極超音速で滑空し、動きながら目標へ到達するとされる飛翔体と説明しています。
米国は2000年代初頭から、通常弾頭で速やかに長距離を打撃する構想(CPGS)の一部として極超音速兵器を追求してきました。米議会調査局の報告書が、その経緯を記録しています。試作機は、米陸軍が2021年に受領したHGV「LRHW」が最初です。2024年6月と12月には発射試験に成功したものの、配備計画は遅れています。
中国は建国70周年の閲兵式で、HGVを搭載可能とされる弾道ミサイルDF-17を初めて登場させました。その運用は、米国防総省によると2020年に始まったと指摘されています。さらに2025年9月の軍事パレードでは、艦艇発射型とされるYJ-17も初めて姿を見せました。
ロシアはHGV「アヴァンガルド」をすでに配備しています。米議会調査局の報告書では、ロシア側の報道として2019年12月に実戦配備されたと記録しています。
さらに、北朝鮮も「極超音速滑空飛行弾頭」の開発を優先目標に掲げているともいわれています。「滑空弾」は、もはや一部の大国だけの専売特許ではありません。
ブースト後に滑空へ移る25式の飛び方
日本の25式高速滑空弾もその系譜の上にあります。
防衛装備庁は前身の島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾を「長距離かつ対空火器(対空ミサイルや高射砲)による迎撃が困難な高高度を超音速で飛翔し、正確に目標へ到達して対地火力を発揮する装備品」と定義しています。
同庁の資料は特徴として、島嶼間射撃に必要な射程、至短時間で弾着可能な速度、そして「迎撃困難な高速滑空飛翔」の3点を挙げています。
飛び方は二段構えです。まずロケットで打ち上げ(ブースト)、その後に分離した滑空体(グライダー)が大気圏内を滑空し、機動しながら目標に到達します。
「滑空」とは、推進力を使わず、大気から受ける揚力(機体を持ち上げる力)で飛び続けることです。打ち上げで得た速度と高度を、少しずつ飛行距離に変えていきます。
ここで注意したいのは「低く飛ぶ」とされる滑空体の飛び方です。これはあくまで、宇宙空間に達する弾道ミサイルの放物線の頂点と比べての話です。
米国で行われた第1次・第2次の発射試験でも、「滑空して飛しょうすることを確認」したと公表されています。一方で、速度域は「超音速(音速を超える速さ)」、射程は「島嶼間射撃に必要な射程」とだけ示され、具体的な数値は非公表です。
ただし、言葉の区別が一つあります。配備済みの25式高速滑空弾(早期装備型)について公表されている速度域は「超音速」で、マッハ5以上の「極超音速」と明記されているのは、後述する能力向上型や別系統の極超音速誘導弾のほうです。
迎撃側の予測を難しくする機動
放物線との決定的な違いは、飛んでいる途中で進路を変えられることです。
迎撃側は、観測した軌道から相手の将来位置を予測し、そこへ迎撃ミサイルを差し向けます。
ところが大気圏内で機動を続ける滑空体は、次にどこへ曲がるかが軌道の観測だけでは決まりません。将来位置の予測が、それだけ難しくなります。
防衛白書も、HGVについて、通常の弾道ミサイルとは異なる低い軌道を長時間飛ぶことと高い機動性から、探知や迎撃がより困難になると指摘されていると記しています。
弾道ミサイルより低い大気圏内を平坦に飛ぶ軌道は、放物線を前提とするミッドコース(飛翔の中間段階)迎撃の覆域からも外れやすくなります。
量産が先行した日本の開発日程
日本の研究開始は2018年度です。そこから8年目にあたる2026年3月31日、陸上自衛隊は研究開発の完了を受けて、この装備を「25式高速滑空弾」と命名しました。
途中の日程には、順序が逆に見える点があります。研究開発の完了は2025年度ですが、量産はその2年前の2023年度に始まっているのです。
これは部隊への配備をできる限り早めるための判断で、防衛装備庁の資料にも「早期量産」と明記されています。
発射試験は米国で第1次、第2次と行われました。第1次が2024年8月から2025年1月、最終試験となる第2次が2025年6月から8月です。
国内でも、走行や弾薬の装填、積雪寒冷地での運用、輸送のされやすさといった試験を積み重ねています。
配備先は富士駐屯地(静岡県)の特科教導隊(とっかきょうどうたい)です。防衛白書によれば、2026年度には上富良野(かみふらの)駐屯地(北海道)とえびの駐屯地(宮崎県)に運用部隊を新編する予定で、取得目標は2個大隊とされています。
能力向上型に残る四つの技術課題
配備された25式は「早期装備型」で、開発はここで終わりません。後継の能力向上型(Block2B)は極超音速で高高度を飛翔し、本州などから対処できる射程まで長射程化するとされています。
2022年度の政策評価書の時点では、開発途中の設計で早期に装備化する能力向上試作型(Block2A)を2027年度以降、本命のBlock2Bを2030年度以降に配備する計画でした。
今後解くべき技術的な課題は四つとされています。
まずは、耐熱防護です。大気圏内を高速で長時間飛ぶと、機体は空気との摩擦や圧縮で高温にさらされ続けるため、その熱から機体を守り続ける技術が問われます。そして着弾時に弾頭を作動させるための弾着速度の制御、滑空体が自分の位置を正確に知るための衛星測位の精度向上、そして全体を一つの誘導弾システムとして成立させる技術です。
滑空弾とは別系統でも、極超音速(音速の5倍以上)で飛ぶ極超音速誘導弾の研究が2023年度から進み、2026年から早期量産が始まっています。2027年度の概算要求には、水中のプラットフォームから発射する派生型の開発も新たに盛り込まれました。
滑空段階を狙う迎撃弾GPIの共同開発
では、同じような飛び方のミサイルが日本に向かってきたら、どう防ぐのでしょうか。
防衛省は、極超音速滑空兵器を滑空段階で迎え撃つ誘導弾GPI(Glide Phase Interceptor=滑空段階迎撃用誘導弾)を米国と共同開発しています。既存の迎撃体制に、滑空段階での対処能力を付け加えるための開発です。
起点は2022年12月の国家防衛戦略で、おおむね10年後までに滑空段階での極超音速兵器への対処能力を研究すると掲げました。
2023年8月には日米共同開発の事前評価が行われ、開発は2026年9月時点も続いています。
ここでいう滑空段階とは、ロケットの燃焼が終わってから、目標へ最後の降下を始めるまでの、大気圏を機動しながら滑空する区間を指します。政策評価書は、GPIを終末段階(目標へ落下してくる最後の区間)での対処と組み合わせる前提で位置づけています。
宇宙からの監視も並行して進みます。2027年度の概算要求には、衛星に載せる高精細な赤外線センサで極超音速滑空兵器を探知し追尾する技術の研究が盛り込まれています。
放物線に頼らない軌道は、撃つ側では2026年3月の部隊配備で一区切りを迎えました。同じ軌道に対する守り手のGPIは、いまも日米共同開発の途上にあります。


