「1発は缶コーヒー数本分」のレーザー防空はなぜ成り立つのか——約750万円ミサイルと逆転するコストのからくり
防空の世界で、1発撃つコストが「新車1台分」から「缶コーヒー数本分」へ変わろうとしています。主役は、イスラエルが2025年末に軍へ引き渡したレーザー防空システムです。なぜ桁違いに安いのでしょうか。鍵は「そもそも弾を使わない」仕組みにあります。
迎撃1発「数ドル」の正体は電気代
Rafael社のIron Beam(アイアンビーム)は、出力100kW級の指向性エネルギー兵器(光を集束して標的を焼く兵器)です。メーカーが公表する1発の迎撃コストは「ほぼゼロ=電気代の数ドル程度」。1ドル150円なら数百円です(換算は編集部)。缶コーヒーなら、1〜3本分ほどの額です。なぜここまで安いのでしょうか。弾を使わないからです。撃つたびに減っていく物理的な弾を消費しない以上、追加の1発にかかる費用(限界費用。追加1回分のお金)は光を作る電気代にほぼ限られ、電力と冷却が許す範囲で照射を繰り返せます。ただし、安いのはあくまで「1発ごと」の費用です。システム本体の取得費や整備費、電源設備の費用は別にかかります。
これは構想段階の話ではありません。イスラエル国防省は2024年10月、RafaelとElbitの両社と総額5億ドル(約750億円)の量産拡大契約を発表しました。2025年12月末には初号機がイスラエル国防軍へ引き渡され、テストでロケット弾、迫撃砲弾、ドローンの迎撃に成功しています。国防省によれば、今後は空軍の防空網へ統合する段階です。
新車1台で缶コーヒーを撃ち落とす非対称
では、これまでは1発いくらで守っていたのでしょうか。おおよそ、新車1台分です。対比の相手はIron Dome(アイアンドーム)の迎撃ミサイル「タミル」で、米シンクタンクCSISによれば1発約4万〜5万ドル(約600万〜750万円)と、新車1台に匹敵する額です(換算は編集部)。数ドルのレーザーとの差は、およそ1万倍。米議会調査局も、安価なドローンを高額な迎撃ミサイルで落とす採算の悪さを、レーザー開発の背景に挙げています。守る側ばかりが高くつく、この「割に合わない家計簿」を、電気代だけの迎撃がひっくり返すわけです。
もっとも、レーザーがIron Dome全体を置き換えるわけではなく、担うのは条件の合う短距離目標の肩代わりです。家計簿の形で言えば、約750億円の設備投資が先に立ち、そのあとの1発ごとの追加費用が缶コーヒー数本分、という構造です。同じ選択肢は英国にも広がりつつあり、1発約10ポンドのDragonFire(ドラゴンファイア)が2027年までに英国海軍の駆逐艦へ搭載される予定です。1発約750万円のミサイルの隣に、1発数百円の選択肢が並び始めています。
出典(一次ソース)
- Rafael 公式(Iron Beam): https://www.rafael.co.il/system/iron-beam/
- CSIS Missile Threat(Iron Dome/タミルの単価): https://missilethreat.csis.org/defsys/iron-dome/
- 米議会調査局 CRS IF12397(指向性エネルギー兵器の概況): https://www.congress.gov/crs-product/IF12397
- イスラエル国防省(量産契約 総額5億ドル): https://mod.gov.il/en/press-releases/press-room/major-milestone-in-high-power-laser-intercept-system-development
- イスラエル国防省(初号機引き渡し 2025年12月): https://www.mod.gov.il/en/press-releases/press-room/israel-mod-and-rafael-deliver-first-operational-high-power-laser-system-iron-beam-to-the-idf
- Elbit Systems 米SEC提出 Form 6-K(同社分約2億ドルの契約): https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001027664/000117891324003370/exhibit_1.htm
- 英国防省 GOV.UK 2025年11月20日(DragonFire): https://www.gov.uk/government/news/boost-for-armed-forces-as-new-laser-weapon-takes-down-high-speed-drones
装備仕様・作戦情報は2026年7月時点の公開情報に基づきます。