「1時間に1体」の量産時代 ヒューマノイド3社はなぜスペックの出し方が違うのか?
Tesla(Optimus)・Figure・Unitreeのヒューマノイド3社が量産期に入りつつあります。公表スペックの範囲が違うのは、機体を誰に届けるかという設計思想が異なるからです。その中身とは。

人型ロボットの量産予定が、企業の公式文書に書かれる時代になりました。ところが各社のカタログを並べると、体格も価格も、公表している項目までばらばらです。
この不揃いはどこから来たのでしょうか。手がかりは、ホンダから続く二足歩行の系譜にあります。
ホンダが積み上げた40年の助走
二足歩行の研究は1986年の「E0」に始まります。歩行の原理を確かめるために作られた、脚だけの実験機でした。
1993年から97年のP1で、ロボットは初めて胴体と腕を持つ姿になります。身長は1,915mm、重さは175kgでした。
P2は1996年12月に発表されました。ホンダは、世界初の二足歩行ヒューマノイド歩行ロボットだとしています。身長1,820mm・210kgの体は、翌1997年のP3で1,600mm・130kgまで小型化されました。
2000年11月20日に発表されたASIMO(アシモ)は、身長1,200mm・43kgまで一気に小さくなります。狙いは、家庭の環境で作業できることでした。
2011年の最終世代ASIMOは、最高時速9km、57自由度(関節が動く軸の数)、歩行40分に到達します。
ホンダは20年以上、ASIMOのデモを毎日続けました。歴代ASIMOの累計歩数は3,326万歩超、距離にして7,907kmです。
完全自律の二足歩行ロボットに要るのは、長期の研究だけではありません。社会的合意と、転倒時の安全をめぐる法制度も要る、というのがその総括でのホンダの結論です。
三つの入口から始まった2020年代
ASIMOが示した到達点と宿題のあと、2020年代の主役たちは別々の入口から現れます。
Teslaは2021年8月のAI Dayで「Tesla Bot」構想を掲げました。翌2022年9月のAI Day 2022では、実機とハードウェアを公開しています。
このとき示された身長約172cm、可搬重量約20kg、片手11自由度は、いずれも2022年時点の設計目標値でした。
Figure(フィギュアAI)の初号機F.01は、2023年5月に最初の一歩を踏み出しました。以後、機体は実環境展開向けのF.02、家庭向けに再設計したF.03へと世代を重ねます。
Unitree(ユニツリー)の入口は四足ロボットでした。2016年の創業から四足機の量産で培った関節モーターの技術を、二足のヒューマノイドへ横展開しています。
H1は2023年8月15日に発表されました。UnitreeはH1を、中国で走れる初のフルサイズ汎用ヒューマノイドだとし、移動速度3.3m/sを世界記録と公式に表記しています。
そして2024年4月、Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)が油圧式Atlas(アトラス)の退役と、完全電動の新型Atlasを発表しました。この電動化は、後に開発の決定的リセットであり商用化の出発点だったと整理されています。
これは、歩行の原理を確かめる研究機の時代から、量産を前提に設計する時代への転換です。
公式スペックの対比で見える体格差
では、現在の機体はどんな姿をしているのでしょうか。2026年9月時点で各社が公式に公表している数値だけを並べます。
| 機体 | 身長 | 重量 | 公表された可搬重量・腕負荷 | 稼働時間 |
|---|---|---|---|---|
| Figure 03 | 5フィート8インチ(約173cm、編集部換算) | 61kg | 20kg | 5時間 |
| Unitree G1 | 約132cm | 約35kg | 約2kg(標準版・腕の最大負荷) | 約2時間 |
| Unitree H2 | 約182cm | 約70kg | 定格約7kg(腕) | 約3時間 |
| Tesla Optimus(現行世代) | 非公表 | 非公表 | 非公表 | 非公表 |
ただし可搬重量は、各社で測り方の条件が公表されていません。Unitreeの数値は腕の最大負荷です。一方、Figure 03の20kgは公式ページの表記が「ペイロード(持ち運べる重さ)」だけで、腕の負荷かどうかは特定されていません。同じ物差しの比較ではない点に注意が要ります。
Figure 03の最高速度は1.2m/sです。
目を引くのはTeslaの行です。現行世代のOptimus(オプティマス)は、身長も重量も可搬重量も公式には出ていません。
公式にさかのぼれる数値は、2022年の設計目標値だけです。
価格の階段で普及を狙うUnitree
体格の次は値札です。ここで三社の違いがもっともはっきり出ます。
Unitreeの公式価格は階段状に並んでいます。入門機のR1 AIRが4,900ドル、R1が5,900ドル、G1が1万3,500ドル(約195万円)です。
その上にH2の2万9,900ドルが続き、最上位のH2 Plusは10万ドルです。
H2 Plusは、NVIDIAのIsaac GR00T開発プラットフォーム上に構築された初のリファレンス設計機(他社や研究者が手本にできる標準設計の機体)です。提供開始は2026年後半と公式に告知されています。
触覚つきの5指ハンドを加えると、自由度は全身とハンドで75に達します。腕のトルク(関節を回す力)は最大120N·m、定格ペイロードは約7kgです。
Unitreeが公式に掲げる設計思想は、低価格で研究と民生にヒューマノイドを普及させることです。2026年9月には、ロボット基盤モデル「UnifoLM」のモデル重み(学習済みAIの本体データ)まで公開しました。
学習に35億ドルを積むFigure
Figureが掲げるのは、商用労働向けのAI駆動ロボットです。機体の諸元と並んで、AIの学習の数値も細かく公表されています。
2026年9月17日発表のHelix(ヒーリックス)2.5は、学習データを1件も集めていない30軒の家で試されました。リビングの片付け、タオル畳み、ベッドメイキングをゼロショット(その家のデータを事前に与えないまま)で実行しています。
人間の行動データセット「Index」で事前学習したことで、ゼロショットの成功率は9%から56%に上がったといいます。
この学習にFigureがコミットした計算資源は35億ドルです。
さらにNscaleとの提携では、NVIDIAのプラットフォーム上で最大10万基のGPU(AIの学習に使う計算チップ)を展開します。初期展開はテキサス州で2027年後半に始まる予定です。
生産計画だけを公式文書に載せるTesla
一方、Teslaの公式文書には機体の諸元がほとんどありません。
イーロン・マスクは量産時の価格を1体2万から3万ドルと発言してきました。しかしこの価格は、確認できた株主レター3本(2025年第4四半期から2026年第2四半期)と2026年6月期の四半期報告書のいずれにも書かれていません。
フリーモント工場ではModel S/Xラインを停止し、Optimusの第1世代生産ラインを設置中です。生産開始はまもなくと見込まれています(2026年7月22日の株主レター)。
初期のOptimusの行き先は販売ではなく、訓練データ収集と機能開発を行う社内の「Optimus Academy」です。外販についての記述は、株主レターにはありません。
第1世代ラインは年産100万体で設計されています。テキサスでは、長期で年産1,000万体を想定した第2世代ラインの準備も示されました。
Teslaが公式に掲げるのは、まず自社工場向けの汎用労働ロボットです。
生産ラインの現在地
計画ではなく、すでに動いている数字もあります。
Figureは2026年4月時点で第3世代機を350体以上生産しました。生産ペースは120日足らずで1日1体から「1時間1体」へ、24倍になったといいます。
組み付けたアクチュエータ(関節を動かす駆動装置)は、9,000個を超えています。
実装の実績も先行しています。前世代のFigure 02はBMWのスパルタンバーグ工場で11か月・1,250時間以上稼働しました。
Figure 02は板金部品のピック&プレース(部品をつかんで所定の位置に置く作業)で、2025年に3万台の車両組立へ寄与しています。2026年6月30日には、後継のFigure 03が同じ工場に配備されました。
Boston Dynamicsも製品版Atlasを製造中で、2026年中にHyundaiとGoogle DeepMindへ展開する予定です。
Teslaのラインはカリフォルニアとテキサスにあり、いずれも建設中です。株主レターの設備表での表記も「Construction(建設中)」です。
公式文書に書かれた予定と残る壁
各社が公式文書に載せた予定は、2026年から2027年に集中しています。Teslaは2026年中の生産開始、UnitreeはH2 Plusの2026年後半提供、Figureは2027年後半からのGPU展開です。
公表するスペックの範囲は、三社三様でした。この濃淡は、各社が自ら公表している設計思想と重なります。
低価格での普及を掲げるUnitreeは、価格と諸元を製品ページに並べます。商用労働向けを掲げるFigureは、働いた実績と学習の数値を発表します。まず自社工場で使うと掲げるTeslaの公式文書に載っているのは、生産の計画です。
なお、Optimusの価格と外販の時期は確認した公式文書の範囲では見当たらず、G1の歩行速度とH1の価格も執筆時点で公表されていません。
完全自律の二足歩行ロボットには、長期の研究に加えて、転倒時の安全をめぐる法制度と社会的合意が要る、というのがホンダの結論でした。
1986年に脚だけの実験機から始まった系譜は、機体を「1時間に1体」作る区間まで来ました。その先に要るものは、7,907kmを歩いたASIMOの時代にすでに挙がっていました。


