日本発宇宙スタートアップ 欧州老舗がスラスタを供給へ
月面開発を目標とするスタートアップ企業ispaceは10月6日、月面探査機の開発に向けて欧州の宇宙技術企業アリアングループと協力拡大の覚書に署名したと発表。月着陸船「ULTRA」のスラスタ選定と、量産へ向けた布石が窺えます。

姿勢制御のスラスタにアリアングループ製
日本の宇宙スタートアップ企業ispaceは2026年10月6日、トルコ・アンタルヤで開催された国際宇宙会議「IAC 2026」の会場で、仏独の宇宙技術企業アリアングループ(ArianeGroup)と、現行および将来の月探査機とミッションに向けた協力拡大の覚書(MOU)に署名したと発表しました。あわせてispaceは、月着陸船「ULTRA(ウルトラ)」に搭載するスラスタ機器として、アリアングループ製を選んだことも明らかにしました。
選ばれたのは、パルシング・スラスタと、姿勢制御系(RCS)向けのスラスタ機器です。スラスタとは機体の向きや速度を細かく調整する小型の噴射装置で、パルシングは噴射を短く刻んで繰り返す方式を指します。「ULTRA」への採用は、アリアングループの豊富な飛行実績と宇宙システムの経験を踏まえてのことだとされています。
一方のアリアングループは、欧州のロケット「アリアン」の名で知られる老舗の推進装置メーカーです。航空宇宙産業のエアバス(Airbus)とサフラン(Safran)が同じ比率で出資し、フランスとドイツに合わせて8,700人の従業員を抱えています。全世界で300人超のispaceを大きく上回る規模です。今回は機器の供給だけでなく、開発を支える組立・統合・試験(AIT)サービスの提供も契約しています。
協力は「Mission 1」から8年
両社の協力は、今回が初めてではありません。ispaceが2023年に初めて月面着陸を試みた「Mission 1(ミッション ワン)」では、推進コンポーネント(エンジンまわりの部品)とAITの面で協力し、その作業はドイツ・ランポルツハウゼンにあるアリアングループの施設で進められました。そして月輸送・月探査の商業パートナーシップづくりを目指す欧州宇宙機関(ESA)のパイロットフェーズに、ispaceの欧州法人とアリアングループが共同で選ばれています。
こうした積み重ねを踏まえ、アリアングループでビジネス開発を担当するマルクス・アベレ氏は今回のMOUを「両社の関係における大きな新章」と表現しています。同氏は「最先端技術で協働してきた8年間の成功を経て、将来の着陸機システムおよび軌道上アプリケーションの領域へと協力を拡大する」としています。
ispace創業者でCEO(最高経営責任者)の袴田武史氏は、月への定期的なミッションの実現に向けて、「経験豊富なパートナーとの強固で長期的な関係の構築は、探査機の開発・生産能力をスケールさせるために不可欠になる」と述べています。袴田氏は、「ULTRA」にとどまらない将来の探査機・ミッションでの協力の可能性にも触れました。月へ通い続ける日本発の機体づくりに欧州の老舗の経験を組み込む動きが加速しています。


